スペインの乳歯の行方と虫歯の治療

子ねずみのペレス君の贈り物

 

 

プエンテフエンテ20044

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   日本では乳歯の下部の歯が抜けた時には、屋根に投げ、上の乳歯が抜けた場合は縁の下に投げると良い永久歯が生えてくるといい伝われていますが、スペインの子供たちは乳歯が抜けた晩には枕の下にその歯を置いて夜深くに【子ねずみペレス君】がその歯と交換にプレゼントを置いていくのを楽しみにしています。全部の乳歯が生え変わるまでこの子ねずみ君がやってくる訳ですから、この子ねずみペレス君とのお付き合いは長いものです。

   民謡あるいは御伽噺は口から口へと伝わり、いわゆる庶民の生活の中から生まれて年月とともに広まり、現在この子ねずみペレス君を知らないスペイン人は居ないであろうというくらい知名度は高いです。それでも、口から口へと伝わるのですからバージョンも少しずつ変わります。作者不明の歌謡にこの子ねずみペレス君が登場します。「子ねずみペレス君、鍋の中におっこっちゃった、(それを見ていた)ちっちゃな恋人のゴキブリちゃん、歌いながら泣いちゃった」こねずみペレス君は、小さいたまねぎを食べたくてぐつぐつのスープ鍋に近づき誤って落ちてしまったという悲しい内容です。また、ペレス君の恋人はゴキブリちゃんではなく、蟻さんだったという説もあります。

   また別にへレス出身のイエスズ会ルイス・コローマ神父が、初めて乳歯が抜けた幼年アルフォンソ13世のためにと宮殿から依頼されて作った話にも登場します。子ねずみペレス君はとてもちっちゃくて、麦藁帽子をかぶり、金縁のめがねをかけ、麻で作った靴を履き、背中に赤いかばんをしょっていました。彼はマドリードのアレナール通8番にある菓子店プラッツの倉庫にあったハントレー・ビスケットの大きな箱の中で暮らしていました。王様ブービィ1世は、子ねずみペレス君と会うことが出来、ある日の晩のこと、彼の乳歯集めに付き添い、子ねずみペレス君がその晩ある貧しい子供の乳歯と引き換えに贈り物を置いていくのを見て、初めて世の中には貧しい生活をしている子供たちがいることを知ったのでした。何年か前にマドリード市庁は、このアレナール通り8番に記念プレートを掲げました。『幼年アルフォンソ13世のためにコローマ神父が書き下ろしたお話の小ねずみペレス君がこの建物にビスケットの箱の中住んでいました。』

   お隣の6人の子供のお母さんのピラールさんに、このペレス君の事を聞いて見ました。もちろん子供たちには内緒で彼女は、この最初のそれぞれの歯で指輪を6つ作ったそうです。その他の乳歯は大事にたんすの奥にそれぞれの子供たちの名前をつけてしまってあるそうです。これは日本の母親が桐のちっちゃな箱入りのへその緒を大事にしまうのに似ていますね。

   子ねずみ君がくれるプレゼントの内容は、当然のことながら家庭によって様々ですが、やはり最初の乳歯が抜けた時にはお祝いの品も大変豪華にするようです。

   マドリードのマジョール広場で長いこと、肖像画の依頼を受けていた日本人画家に、ある日ふとキャラメルを差し出すと、彼はていねいに食べれない理由を言って断りました。それは、スペインの歯の治療費の莫大さで、彼は一切飴類を口にしないからなんだそうです。そのときまで、私は歯医者に行ったことがなかったので、実情が飲み込めませんでした。

    スペインの社会保険制度はかなり行き届いていて、社会保険に入っている人は、殆ど無料で、定期健診、診察、お産、治療を保険でまかなってくれます。それらは入院費まで含まれています。ただ診察をしてもらった後に、薬の処方箋を持って街頭の薬局に行くという手間がありますが、それでも、薬は市販料金より半分以下で買えることができます。私はお蔭様で今まで生きているうちに特に大病にかかったこともなく、大怪我もなく、体調はいつも良好でお医者様とは縁がないので、スペインでも病院に行くことがありませんでした。

  そんなある日、口の奥の方がうずうずしてきて、虫歯かと思い大口を開けて鏡を覗き込んでも、変わった様子がありませんでしたが、しばらく痛みが取れなかったために初めて社会保険の歯医者に行くと、【平和】という名のマドリードでも大きな病院でレントゲンを撮りなさいといわれ、下あご全部のレントゲンを撮ったのです。二十年も歯茎に埋まってた親知らずがどうしたことか突然出てきました。。。。。。。。

   スペインの社会保険は、こういった診察、レントゲン、虫歯防止にフッ素を歯の表面に塗る、抜歯については全額保険がまかなってくれます。しかしながら虫歯治療は行ってくれません。ですから、個人の歯医者に行って治療をするしかないのです。ちなみに虫歯の治療は一本につき60ユーロ、日本円だと7800円。神経まで侵されている場合など、神経を抜いて、人口歯根を植えつけるのに240ユーロ、日本円で31,200円となり、さらに陶材の義歯を作るのに240ユーロですから、マジョール広場のW氏の言うこともよくわかります。そんなわけで、高いといえども、歯は健康の一部ですから、治さなくてはいけませんがお金がない人は行けませし、前歯のない人を見るのも稀にあります。

    スペインでも、エステティック産業では歯が美しい女性は笑顔が美しいと言う文句で、もともとの健康な歯を削ってそこに義歯をはめ込むのに何百マンものの費用がかかるそうですが、確かに歯には外観美的要素があるとはいえ、人間の消化器官の最初の機能であり、第一に歯がなければ、おいしいものを味わって食べることは出来ない訳ですから、こんな悲しいことはありません。おまけに一本抜けると連鎖作用を起こして次々と歯は抜けてしまうこともあるそうです。エステティックには人それぞれに好みがあるとはいえ、食生活に障害を起こすことから考えれば全国民が平等に虫歯治療を受けられる権利があるはずと思いますが、どうしてスペインの社会保険に含まれないのかはよくわかりません。

        私の親知らずは上を向かないで一番奥の歯に向かって、出掛かっていたためにこの親知らず君が出ようとする度に、口の奥が痛くなるということで、怖いけれど何ヶ月ごとに耳まで痛くなることから【平和】大病院に出向きました。私を迎えてくれた四人の歯科医たちは、私の親知らずが正常な方向を向いてないゆえに歯茎の下にある細い骨をまず削ってから抜歯することを告げ、付き添っていた看護婦は私の前に、一枚の契約書を出しました。それは、【手術においてどんなことが起こっても、患者は裁判訴訟を起こさない】という書類で、私はただ単に歯を抜いてほしいのに、それでは何かが起こるのかと率直にお医者に聞いたところ、一人の歯科医は、この書類にサインをしたうえで沢山の人が毎日歯を抜いてることを説明した後、でも抜きたくないなら抜かなくてもいいんだよ、といったとたん、別の歯科医は将来炎症を起こし手の施しようがなくなるから、抜いてしまうべきだとコソコソッと小声で言い始め、実際、歯を抜くことさえ怖かった私は、うまく言い逃れて病院を出ました。それからかれこれ四年が経ち、私の新しい親知らず君は殆ど出て、これから長い付き合いになるからと、歯磨きをしっかりしている今日この頃です。

プエンテフエンテ20044月    ©2004小田照美

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